障害 講演|言語障害があってよかったと思えた、初めての講演体験
「障害がある人の講演って、どんな話をするのだろう」
「言葉がうまく話せなくても、人前で伝えることはできるのだろうか」。
そんな疑問を持つ方にこそ、知ってほしい体験があります。私・東谷瞳は言語障害があり、人前で話すことに強い不安を抱えていました。それでも初めて講演の場に立ち、聞き手と向き合ったことで、「伝えること」の意味が大きく変わったのです。
この記事では、初めての講演で感じた緊張や気づき、夢と現実の間で悩みながら見つけた答え、そして講演を通して伝え続けたいメッセージを紹介します。
初めての講演体験と最初の一歩
障害についての講演は、話すことが得意な人だけのものではありません。言語障害があっても、自分の経験そのものが誰かの学びになることがあります。ここでは、中学校で行った初めての講演を通して感じた不安や気づき、そして「伝えること」の意味をお伝えします。
言語障害がある自分への不安と躊躇
初めての講演依頼を受けたとき、心に浮かんだのは期待よりも不安でした。言語障害のある自分が、人前で話す。その舞台が中学校だと聞き、正直に言えば怖さのほうが大きかったのです。
言葉がうまく出なかったらどうしよう。途中でつかえて、何を言っているのか分からなくなったらどうなるのか。生徒たちは退屈しないだろうか。考えれば考えるほど、マイクの前に立つ自分の姿が重く感じられました。
「ちゃんと話せるのか」という悩みは、講演内容以前の問題でした。流れるように話せない自分は、講演者として失格なのではないか。そんな思いが、何度も背中を引き戻します。それでも、「本当の気持ちを聞きたい」という先生の言葉が、心に残り続けていました。
中学校での講演が教えてくれたこと
迎えた当日。教室には、中学生たちのまっすぐな視線がありました。緊張で言葉が詰まる場面もあり、決して上手な話し方ではなかったと思います。それでも、生徒たちは静かに、真剣に話を聞いてくれました。
講演後、担当の先生から伝えられた言葉があります。「うまく話せない分、生徒たちは一生懸命聞こうとしていました」。その一言に、胸がいっぱいになりました。
話し方が完璧でなくても、思いは伝わる。当事者の声には、人を引き寄せる力がある。その瞬間、障害講演の意味を初めて実感しました。
言語障害があることが、壁になるのではなく、聞き手との距離を縮めていた。その事実が、心に深く残りました。
自信が生まれた理由と気づき
この中学校での初講演を通して、心の中に小さな変化が生まれました。「言語障害があってよかった」。これまで一度も思えなかった言葉です。
話しにくさがあったからこそ、生徒たちは真剣に耳を傾けてくれた。その姿が、自分自身を少し肯定してくれました。
できないことばかりに目を向けていた日々。しかし、できなかった経験こそが、誰かの学びになる。その気づきは、講演を続ける勇気につながります。
初めての講演は、成功か失敗かで言えば分からないかもしれません。ただ一つ確かなのは、「伝えたい」という思いが人に届いたという実感。
この中学校での講演が、「伝える人」として歩き出す原点となりました。
夢と現実のはざまで考えたこと
初めて障害についての講演を終えたあと、心に残ったのは達成感だけではありませんでした。教員を目指してきた自分にとって、この講演は「寄り道」なのか、それとも「新しい道」なのか。夢と現実の間で揺れながら、自分の生き方や伝え方を見つめ直す時間が始まります。
教員の夢と講演活動の両立の模索
私は長く、教員になることを目標にしてきました。子どもたちと向き合い、授業を通して社会のことや生き方を伝えたい。その思いは、障害があっても変わらない強い願いでした。そんな中で始まった講演。人前で話すことに不安を抱えながらも、「伝える」という行為は、教員の夢と重なる部分が多いと感じていました。
一方で、心のどこかに迷いもありました。講演活動に力を入れるほど、教員になる道から離れてしまうのではないかという不安。夢を追いながら、別の可能性にも向き合う。その両立の難しさに、何度も立ち止まります。夢と現実のギャップに戸惑いながらも、「どちらかを捨てる」ではなく、「どうつなげるか」を考える時間でした。
行政職としての講演への迷いと決断
その後、私は県職員として働く道を選びました。安定した立場を得た一方で、講演に立つことへの戸惑いが生まれます。「教員でもない自分が、教育の場で話していいのだろうか」。そんな迷いが、何度も頭をよぎりました。
それでも、講演で伝えたいことの軸は変わりません。障害があっても、夢を持ち、悩み、考えながら生きているという事実。立場が変わっても、その経験そのものに価値があると感じるようになります。肩書きではなく、一人の当事者として話す意味。そこに、講演を続ける理由が見えてきました。
同僚や上司の言葉が与えた影響
大きな転機となったのは、職場の同僚や上司の言葉でした。「あなたの夢は、障害のある人とない人が対等に生きられる社会をつくることではないか」。そう言われたとき、胸の奥にあった迷いが、少しずつほどけていきます。
教壇に立つことだけが夢の形ではない。行政という立場からでも、講演という場を通してでも、伝えられることはある。その気づきは、夢の再定義につながりました。諦めたのではなく、形を変えただけ。そう思えたことで、講演に立つ勇気が生まれます。
夢と現実のはざまで悩んだ時間は、決して無駄ではありませんでした。その迷いこそが、今の私の言葉に深みを与えている。そう感じています。
障害について伝える場で大切にしていること
障害について話す講演と聞くと、「大変さを伝える場」と思われがちです。しかし、実際に求められているのは、生活の工夫や考え方、生き方そのもの。何を、どんな思いで伝えているのかを知ることで、この話の本当の意味が見えてきます。
「あるがまま」を伝えることの大切さ
私が人前で話すときに意識しているのは、できないことだけを強調しないことです。障害があると、どうしても「苦労」や「不自由さ」に目が向きやすくなります。ただ、それだけを伝えてしまうと、聞く人の印象は一面的になります。
うまく話せない日もある。それでも人と関わり、考え、悩みながら生活している。試行錯誤の連続、その過程こそが伝えたい部分です。実体験に基づく言葉には、作られた表現では出せない重みがあります。飾らない話だからこそ、心に届く。その実感を大切にしています。
誰に向けて話しているのか
この話を届けたい相手は、一人ではありません。障害のある本人にとっては、「このままでも大丈夫」と感じるきっかけになること。将来に不安を抱く中で、選択肢は一つではないと知ってもらいたい。
同時に、家族や先生、職場の人など、関わる立場の人にも考えてほしいことがあります。支えるとは、何か特別な行動をすることではありません。相手のペースを尊重すること、決めつけずに話を聞くこと。その積み重ねが、安心できる環境につながります。話の中では、社会全体への問いかけも忘れません。
伝わりやすくするための工夫
言語に不自由さがあるからこそ、言葉選びには特に気を配っています。難しい言い回しは使わず、短く、分かりやすい表現を意識。話す速さや間の取り方も、聞き手への大切な配慮です。
また、出来事を順番に語る「物語」の形を取ることで、共感が生まれやすくなります。失敗、迷い、そこから得た気づき。その流れがあるから、聞く人は自分の経験と重ねられるのです。答えを押しつけるのではなく、考えるきっかけを渡す。それが、私がこの場で大切にしている姿勢です。
よくある疑問と講演者としての答え
講演を検討している人や、実際に話を聞く立場の人からは、共通した疑問が多く寄せられます。「誰に向いているのか」「何を話すのか」「うまく話せなくても大丈夫か」。ここでは、そうした不安に先回りして、講演者の立場から分かりやすく答えていきます。
障害についての講演は誰に向いているのか
障害についての講演は、特定の人だけに向けたものではありません。学校では、生徒が多様な価値観に触れる機会になります。福祉の現場では、支援を考える視点を広げるヒントに。企業では、働き方や人との関わり方を見直すきっかけになります。
共通して伝えたいのは、「特別な話」ではなく、身近な生活の話であるということ。障害の有無に関わらず、誰もが関係者です。立場の違う聴衆に対しても、メッセージの軸は一つ。「人はそれぞれ違いながら生きている」という事実。その理解が、社会を少しずつ変えていきます。
講演で話す内容はどう決める?
話す内容を決めるとき、最初に考えるのは「誰が聞くのか」。対象が中学生なのか、大人なのか、支援者なのかで、伝える順番や言葉は変わります。ただし、すべてを盛り込もうとすると、伝わりにくくなります。
テーマ選びのポイントは三つ。自分の経験に基づいていること、聞き手の生活につながること、そして一番伝えたいメッセージが明確であること。よく聞かれる質問は、「つらいとき、どう乗り越えたのか」「前向きになる方法はあるのか」といったものです。その答えも、立派な成功談より、迷った過程や考えた時間を正直に話すようにしています。
言語障害があっても伝えられるのか
「うまく話せなくても大丈夫なのか」という不安は、よく聞かれます。結論から言えば、問題ありません。大切なのは、流ちょうさよりも伝えようとする姿勢。ゆっくり話すこと、言葉に詰まったら待ってもらうこと。それも含めて、自分の話です。
安心感をつくるために、事前に伝える内容を整理したり、短い文で話したりする工夫もしています。そして何より強いのは、実体験に基づく言葉。完璧でなくても、嘘のない話は伝わります。言語障害があるからこそ、聞く側が耳を傾けてくれる。その経験が、今も講演を続ける支えになっています。
初めての講演から見えてきた未来
初めて人前で、自分の経験や思いを語った時間は、その場だけで終わるものではありませんでした。伝えた言葉は聞き手の心に残り、同時に自分自身の見方や考え方も少しずつ変えていきます。この章では、経験を伝える場を通して見えてきた未来と、これからにつながる方向性についてお伝えします。
講演がもたらす気づきと変化
話を終えたあと、よく聞くのが「考え方が変わった」という言葉です。これまで自分とは関係のない世界だと思っていたことが、実は身近な問題だったと気づく人もいます。学校での声かけが変わったり、職場で相手の立場を考えるようになったり。大きな改革ではなく、日常の中の小さな変化です。
こうした気づきは、その場限りでは終わりません。何年か経ってから、「あの話を思い出した」と伝えてくれる人もいます。言葉は目に見えなくても、人の中で生き続けるもの。経験を伝える場が持つ、静かで長く続く力です。
自分自身の成長とこれから
最初に話したときは、不安と緊張でいっぱいでした。うまく伝えられているのか分からず、必死に言葉をつなぐだけの時間。それでも回数を重ねるうちに、聞き手の表情や反応に目を向けられるようになります。うなずきや沈黙の意味に気づく瞬間。そこから学ぶことも増えていきました。
これから目指したいのは、上手に話すことではありません。聞いた人が自分の生活や立場に置き換えて考えられる時間をつくること。そのための言葉選びや伝え方を、これからも磨き続けていきます。成長は終わりではなく、続いていくものです。
社会に経験を届けることの意味
当事者の経験を直接伝えることには、大きな意味があります。制度や数字だけでは伝わらない感情や迷い、日常の工夫。そうしたものが、言葉を通して社会に共有されていきます。
「共に生きる社会」という言葉はよく使われますが、理解は一気に広がるものではありません。一人ひとりが考え、少し行動を変える。その積み重ねが必要です。経験を語る場は、その最初のきっかけになります。これからも、そうした役割を大切にしながら伝え続けていきたいと考えています。
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