平成13年度心の輪を広げる体験作文 最優秀賞 内閣総理大臣賞「みんないたから」
八月二十五日、二十六日、バリアフリーミュージカルの初舞台を終えた。
このミュージカル劇団の名は、「あんぽんたん」。考えていてもはじまらない、頭の中をあんぽんたんにして、どんな障害があろうとも、目の前にあるものにとにかく突き進んでいこう、という意味が込められている。「あんぽんたん」のメンバーは、障害者三十名と健常者四十名の総勢約七十名である。障害者の中には、知的障害、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由など、さまざまな障害を持った人達がいる。
私が初めて、この「あんぽんたん」を知ったのは、昨年の八月、ちょうど一年前のことである。新聞記事にあんぽんたんのことが紹介してあるのを見て、一度見学に行った。その時のメンバーの数は、今の三分の二程度であったが、その時気がついたのは、障害者、健常者ほとんど関係ないということだった。練習中は、誰もが一生懸命だった。練習会場での活気あふれるみんなの姿を見て、私もこの仲間に入りたいと思い、入団を決意した。
しかし、何度か通うようになると、私は自分がこの集団の中に、いてもいいのかと疑問を感じるようになった。なぜなら私が入団した頃、私と同じ身体に障害を持つ人はほとんどいなかったからだ。ほとんどが知的障害を持つ人ばかりだった。また、そればかりではなく、普段、普通学校で生活している私にとって、こんなにたくさんの障害を持つ仲間とともに過ごすことに抵抗を感じていた。その思いは、本番当日まで、私の苦しみとなって、私の中にあった。私は過去に、このようなことをよく言われた。
「あんたの障害は、軽いからいいなあ。私と違って、歩けるもんな。」
「あんぽんたん」の仲間達には、私より重度な障害を持つ人がたくさんいた。わりあい軽度な私は、他の障害者と違いほとんどのことは自分でできた。でもそれが、私にとって何よりも辛かった。先の言葉を、練習中常に浴びせかけられているような感じがしていた。実際にそのような言葉を言う人もいた。私は、いつも本当の自分を出せずにいると思い続けていた。いつも、自分の障害を相手に感じさせないようにしていた。
でも、本番が近づくにつれ練習がハードになってくると、私の障害が目立つようになっていった。それは、手足に障害をかかえる私にとって、体を動かすことは大きなエネルギーが必要だが、そのための体力が少ないということだ。ダンスや歌のハードな練習についていくのには、体力に限界があったのだ。
私は見学することが多くなった。普通学校では、そういうことはたびたびあったので慣れていたが、「あんぽんたん」の仲間達にそういう自分の姿を見られたくなかった。本当はできるくせに、と思われそうで恐かった。でも、「あんぽんたん」の仲間達は、快く助けてくれた。疲れてへとへとになっている時は肩をかしてくれ、車椅子の時は気軽に押してくれた。そんな仲間達の親切に触れた時、私の中で何かが変わった。普通学校で生活する中で生じる差別やいじめが、心の中に沈殿し、同じ障害を持ち、ともにがんばってきた仲間をも信じられなくなっていた自分を恥じた。でも、そのことに気づいた私は、「あんぽんたん」で本当の自分を出せるようになった。
楽しい思い出、辛い思い出、いろいろな思いを背負いながら、とうとう本番当日を迎えた。二十五日の当日は、本番の前にゲネプロ(本番さながらのリハーサル)があったが、私は、本番の時まで体力を蓄えておくために見学していた。初めて客席で見る自分たちのミュージカル。本当にすばらしかった。私の出番の時、私の位置とセリフがぽっかりと空いているのを見て、思った。本番の時、私はこの位置にいるんだ、私はこのすばらしい舞台を作り上げるメンバーの一人なんだ、「あんぽんたん」のメンバーの一人なんだと。その時私は、「あんぽんたん」のメンバーである自分を嬉しく思い、誇りに思った。涙がとまらなかった。
そして迎えた本番。ここからは体力勝負となった。一回一回上がる夢の舞台と、袖にはけてきた時の、何とも言えない引きずり込まれるような極度な疲れ。最後の方に袖で待機している自分の姿は、鏡にうつすのが怖いほどで、息を整えるのに精一杯で話す余裕すらなかった。でも、そんな私の周りには、袖で待機している他の仲間達が集まって、手を握っていてくれた。障害を持つありのままの私の姿を認め、応援してくれた。
おそらく、体力は限界を超えていたのであろう。しかし、私が最後まで舞台に立てたのは、仲間がいたからだ。もし、この素晴らしい仲間がいなければ、きっとあの舞台には立てなかったであろう。
舞台が終わると、みんな大粒の涙をこぼして喜びあった。私が体力の限界にチャレンジしたように、仲間達もそれぞれ自分の限界にチャレンジした。そこには、障害者、健常者は関係なくなっていた。そこでは、みんなが一つになった。共に厳しい練習を乗り越え、苦しみも喜びも分け合った仲間として。そしてこの世に生を受けた、同じ人間として。
この「あんぽんたん」は、二十六日の舞台終了をもって解散となった。しかし、「あんぽんたん」は、私の心の中に生き続けるであろう。私がありのままで頑張ることのできた唯一の場所として。そして、この体験を通して勝ち得た、みんな一つになれる、ということを、共生の時代を歩んでいくための第一歩として、今の社会に広めていきたい。
0コメント