言語障害の私・東谷瞳 が講演活動で学んだこと|聴衆に届く話し方・サポート体制・工夫
言語障害がある人にとって、「人前で話す」という行為は大きな壁です。声が疲れやすい、聞き取りにくい、思うように言葉が続かない——そんな不安が重なり、講演なんて自分には無理だと感じる人も少なくありません。私、東谷瞳 もその一人でした。それでも、伝えたい思いがあり、工夫とサポートを重ねながら講演活動を続けてきました。
本記事では、言語障害があっても講演を行うために必要な工夫、聴衆に届きやすい話し方、支えてくれる人との連携方法、そして講演を続ける中で見えてきた変化を具体的に紹介します。「どんな準備をすれば安心して話せるの?」「聞き取りにくさをどう補えばいい?」そんな疑問にも答えます。読み終える頃には、あなた自身の“伝える力”にも新しい可能性が見えてくるはずです。
言語障害があっても講演を始めた理由
言語障害があると、人前で話すことに大きな不安を抱えます。声が続くか心配、『あと5分話したら声が枯れてしまう』という焦り、聞き取りにくさへの申し訳なさ、失敗への恐怖言葉に詰まった瞬間に会場に流れる『沈黙の重さ』。
しかし、それでも講演という場に立とうと思えたのは、伝えたい思いが確かにあったからです。この章では、その背景と講演を選んだ理由、さらに母や友人と交代しながら登壇する仕組みが生まれた流れを紹介します。
声が疲れやすくても伝えたい思いがあった背景
私の声は長く話すとすぐに疲れ、言葉がもつれてしまうこともしばしば。話すことには苦労が多く、できれば避けたい場面も多かった一方で、「伝えたい」と思う気持ちが心の中に残り続けました。
それは、同じように言葉で悩む人の力になりたいという願い。誰かが困ったときに「ひとりじゃないよ」と届けたい気持ち。日常で感じてきた生きづらさ、周りに助けられて乗り越えてきた経験。その一つひとつが、言葉として誰かに渡っていくことを求めてくるようでした。
声が疲れやすいからこそ、一言の重みは大きいはず。話す量より伝わる質を大切にする姿勢に気づき、講演に踏み出すきっかけになったのです。
講演という場を選んだ目的やそこに込めた願い
文章で伝える方法もありましたが、講演という場を選んだのは「その瞬間の空気ごと届けられる力」があるからです。
聴衆の顔を見て、その反応を感じながら話すと、言葉以上のものが伝わることに気づきました。声の揺れ、表情、間。どれも文章では伝えきれない要素です。
講演で伝えたかったのは、言語障害への理解だけではありません。困難があっても、自分にできる形で伝える方法は必ずあるという事実。完璧に話せなくても、思いは届くという希望でした。
「話せないから無理」と思っている人に、新しい選択肢を見せたい。そして、支える側の人にも“寄り添うヒント”を届けられたらという願いを込めて、講演という舞台を選んだのです。
母や友人と交代しながら登壇する仕組みが生まれた経緯
ただ、講演をひとりで続けるには限界がありました。長時間話すと声がかすれ、伝わりにくくなることも多い。聴衆にとっても聞き取りづらさが負担になってしまう場面があり、どうすれば互いに安心できる形になるかを考えました。
そこで生まれたのが、「母や友人と交代しながら登壇する」という方法です。
10〜15分ごとにスピーカーを切り替えることで、私の負担も減り、聞き手もリズムを保ったまま話を追いやすくなります。さらに、母や友人の視点から語ってもらうことで、私の経験を多角的に伝えられるメリットも大きく、講演の内容が深まるきっかけにもなりました。
この仕組みは、私ひとりでは作れなかったものです。周りの理解と協力があったからこそ生まれた、新しい講演スタイル。言語障害があっても講演ができる方法は、一つではないことを教えてくれた工夫です。
聴衆に届きやすい話し方に変えるための工夫
講演では内容だけでなく「どう話すか」も大切です。特に言語障害があると、話す速さや呼吸、声の使い方がそのまま伝わりやすさに影響します。この章では、聴衆に言葉を届けるために意識してきた工夫を紹介します。
ゆっくり話すことや呼吸を整えることを意識した理由
私の話し方は、緊張すると速くなりやすく、声も乱れやすい傾向があります。早口になるにつれて、言葉の滑らかさが失われ、聞き取りにくさが増えていくのを自覚していました。
そこで意識したのが「ゆっくり話すこと」と「呼吸を整えること」。
呼吸が浅くなると声が震えたり、言葉が途切れたりするため、まずは深く吸うことを習慣にしました。ゆっくり話すと、自分の体が落ち着き、声が安定する実感もあり、全体の話しやすさが大きく変化。
聴衆にとっても、ゆったりしたテンポは耳にやさしく、内容が理解しやすいというメリットがあります。
ゆっくり話すことは、言語障害を補うための工夫であり、同時に聴衆への配慮にもつながる大切な工夫でした。
声がつらくなる前に切り替えるために決めていた合図
講演を続けていると、声が急に弱くなる瞬間があります。
そのまま無理をすると、声がかすれ、話の内容が伝わりにくくなるだけでなく、自分自身も疲れてしまう展開に。
そこで、母や友人と登壇する際、「ここで交代したい」という合図を事前に決めていました。
例えば、手元のペンを静かに動かす、視線を合わせて小さくうなずくなど、聴衆には気づかれない自然なサイン。声がつらくなる前の段階で交代できるため、無理のない進行が可能に。
この合図のおかげで、途中で急に話せなくなる不安が減り、講演に集中できるようになりました。
聴衆にとっても、声が乱れないまま話が続くため、内容を理解しやすいという利点があり、全員が安心していられる仕組みになったのです。
話す時間を区切って交代することで得られた効果
講演では、10〜15分ごとに母や友人と交代するスタイルを取り入れています。
これは声を守るための工夫ですが、実は他にもさまざまな良い影響がありました。
まず、聴衆の集中が続きやすいこと。
同じ声を長く聞くより、話す人が変わることでリズムが生まれ、飽きずに内容を追いやすくなります。私が語る部分は「当事者としての体験」、母や友人が語る部分は「周囲から見た視点」になるため、話が立体的に広がるのも大きな強み。
さらに、私自身にとっては「次の出番まで少し休める」という安心感が生まれ、声を無理なく保てるように。
この交代スタイルは、聴衆・登壇者・内容のすべてにとってメリットのある方法で、言語障害を持つ私が講演を続けられている理由でもあります。
安心して講演できるサポート体制のつくり方
講演を続けるためには、自分一人で無理をしないことがとても大切です。言語障害がある場合、声や体力に限界があるため、周りのサポートが大きな力になります。ここでは、安心して登壇できる環境をつくるために実践してきた工夫を紹介します。
母や友人が同じ舞台に立つことで得られる心の支え
私が安心して講演できる理由のひとつが、「一人で舞台に立たないこと」。
母や友人と一緒に登壇することで、心の負担が大きく減りました。
言葉がつまったときや、声が弱くなったとき、横に家族や友人がいるだけで気持ちが落ち着きます。
「もし伝えられなくなっても、代わりに話してくれる存在がいる」
この安心感が、講演に集中できる土台。
また、母や友人の言葉は、私とは違う視点を持っているため、内容に深みが生まれるメリットも。
当事者の私が語る体験と、周囲の立場から見るエピソードが交互に登場することで、聴衆にも理解しやすい構成になります。
支えてくれる人と一緒に立つことは、私にとって最強のサポート体制でもあり、講演の質を高める力にもつながりました。
資料やスライドを共有して連携を取りやすくする工夫
複数人で講演する場合、事前の準備がとても重要です。
そこで取り入れているのが、資料やスライドの共有。
話す担当者が変わるタイミングや、どのスライドで交代するかを決めておくことで、流れがスムーズになります。
資料は全員が同じものを見るようにし、スライドも共同編集できる形で管理。これにより、内容のズレが起きにくく、安心して本番に臨める仕組みが整いました。
また、共有資料には「ここで補足を入れる」「ここは母に話してもらう」など、細かなメモを加えることも。
これにより、話す人が変わってもテーマがぶれず、聴衆への説明も一貫性のあるものになります。
資料を共有するという習慣は、安心して講演を進めるための“見えない背骨”のような存在。
準備の段階から連携できる仕組みこそ、講演の質を支える大事な工夫です。
文字表示やスライドなど補助ツールを活用したサポート方法
講演は話すだけではありません。
聴衆に内容を届けるためには、視覚のサポートも有効です。
私が活用しているのは、スライドや文字表示。
声が聞き取りにくい部分があっても、スライドでポイントを見せることで情報が補われ、内容が理解しやすくなります。
重要な言葉や数字は画面に表示し、話す内容をシンプルにまとめることで、聞き取りにくさを補う仕組みが完成。
また、スライドを使うことで話す量そのものを減らせるメリットもあります。
私にとっては、身体への負担が軽くなる安心材料。聴衆にとっては、情報が整理された状態で届くため、理解しやすい環境。
補助ツールは「話す力を補う道具」ではなく、「伝える力を広げる味方」。
視覚や文字のサポートを組み合わせることで、無理なく、そして確実に伝わる講演の形が出来上がりました。
自分の声と経験を活かす伝え方
言語障害の経験を語るとき、大切なのは「うまく話すこと」よりも「自分の言葉で届けること」。そのためには、体験をどんな形でまとめ、どんなリズムで話すかがポイントになります。あなた自身の歩みが、そのまま誰かの勇気につながるはずです。
言語障害の体験をストーリーとして語ることで伝わる深さ
自分の体験をそのまま説明するだけでは、相手にとっては“情報”で終わってしまうことがあります。けれど、ストーリーにして語ると、情景や気持ちが具体的に伝わり、聞き手の心に残りやすいもの。
たとえば、「言葉がつまって悔しい気持ち」や「それでも伝えようとした瞬間」を場面として描くことで、あなたの歩みがひとつの物語として響きます。説明ではなく“体験の追体験”になるため、相手の理解が一段深くなる効果。
ストーリーは、あなたの“想いの形”。聞き手の心に長く残るメッセージとして機能します。
聴衆との対話を取り入れることで生まれるつながり
一方的に話を続けるよりも、ところどころで相手に問いかけると、場の空気が柔らかくなります。
「こんな経験、皆さんにもありませんか?」
「もし自分だったらどう感じると思いますか?」
こうした質問は、聞き手が“自分ごと”として考えるきっかけに。あなたの経験が、聞き手自身の生活に重なり、自然と距離が縮まる瞬間です。
対話は、伝える側と受け取る側をつなぐ橋。相手と一緒に考える時間が、場に温度をもたらします。
失敗やつらさも含めて話すことで生まれる共感
成功だけを語ると、聞き手は“すごい人の話”として受け取ってしまうことがあります。
しかし、うまく話せなかった日、涙がこぼれた場面、人に頼らざるを得なかった弱さ――こうした部分まで言葉にすると、聞き手はあなたをもっと身近に感じるもの。
弱さは欠点ではなく、共感を呼ぶ大切な素材。
「自分も同じ気持ちになったことがある」と心が寄り添う瞬間、あなたの声は相手の励ましにも変わります。
完璧ではない姿こそ、誰かを勇気づける力。あなたの歩みそのものが、聞き手にとっての“希望の物語”になります。
講演活動を続ける中で見えてきた変化とこれからの展望
講演を続けると、自分の成長や周りの反応が少しずつ変わっていくのを実感します。言語障害の経験を語ることは勇気のいる挑戦ですが、その積み重ねが新しい視点を運んでくれるもの。ここでは、続けてきたからこそ見えてきた3つの“答え”を紹介します。
講演を重ねることで育った自信や伝える力
最初は、うまく話せるかどうかばかりが気になり、講演前の不安に押しつぶされそうな日もありました。けれど、回数を重ねるなかで「準備すれば大丈夫」「聞き手はちゃんと受け取ってくれる」という感覚が少しずつ体に根づくように。
うまく話せない瞬間があっても、それが講演の価値を下げることにはなりません。むしろ、言葉に詰まりながらも伝えようとする姿勢が、強いメッセージとして相手に届くことを知ったからです。
この積み重ねが自信となり、声の出し方、間の取り方、伝える順番など、自分なりの“伝え方の型”が生まれるきっかけに。講演は、経験を語る場であると同時に、自分を育ててくれる学びの場でもあります。
聴衆や支援者から届いた反応がもたらした気づき
講演後に届く感想は、これまでの自分では気づけなかった発見の宝庫。
「同じ思いを抱えていたことに救われた」
「家族との向き合い方を見直すきっかけになった」
そんな声を受け取ると、自分の経験が誰かの日常の一部にそっと寄り添っていることを感じます。
また、支援者からのアドバイスによって、話す内容の深さや構成の工夫にも気づきが生まれるもの。ときには、まったく異なる世代・立場の人から意見をもらい、伝える意味の広さを再認識する瞬間もあります。
講演は一方向ではなく“相互作用”。聞き手の反応が、次の一歩をつくる力となります。
伝え方の多様性を広げるために今後取り組みたいこと
今後は、講演という一つの形にとどまらず、より多くの人に届けられる方法を増やしていきたいところ。
動画での発信、文章によるコラム、SNSでの短いメッセージ、対話型のワークショップなど、方法はさまざま。声にコンプレックスがある人でも、文字なら安心して伝えられる場が作れます。
また、参加者が体験を語り合える企画も、今後の挑戦として検討したい部分。他の人の思いやストーリーが交わる場は、学びだけでなく“つながり”も生み出す大切な時間。
伝え方を広げることは、届けられる人の幅を広げることそのもの。次のステージに向けて、表現の可能性をさらに探っていく未来が見えてきます。
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