「聞き取りにくい」と言ってくれてよかった|言語障害の私を助けた言葉
言葉が思うように伝わらない。相手がうなずいていても、本当に理解されているのか分からない――。言語障害がある人にとって、この「聞き取りのズレ」は日常的に起こる困りごとであり、大きな不安の種でもあります。
ところが、そんな不安を軽くしてくれたのは、相手のたった一言でした。「いま、少し聞き取りにくかったから、もう一度言ってほしい」。この言葉がもたらす安心感は想像以上に大きく、コミュニケーションのズレを減らす大切なヒントにもなります。
本記事では、言語障害のある人が救われた実際の言葉や、その背景にある理由、周囲ができる配慮のポイントを分かりやすく解説します。読めば、すぐに実践できる“伝わる関わり方”が見えてくるはずです。
言語障害がある人への配慮については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
言語障害とは何か? 専門解説と体験談から見える支援のヒント|文部科学省、インクルDB | 脳性麻痺ライター・著者 東谷瞳 |障害と生きる日々
聞き取りにくいと言われて安心できた理由
言語障害があると、自分の声がどのように相手に届いているか分かりません。相手が聞き取れなくても遠慮して流してしまう場面が多く、その結果、会話のズレが生まれやすくなります。だからこそ、「今の部分をもう一度聞きたい」と言ってもらえる関係が大きな支えになります。ここでは、その理由を具体的に見ていきます。
言語障害が生む聞き取りのズレと気づきにくさ
言語障害がある人にとって、自分の声が相手にどう届いているかは確認しにくいもの。
早口になっていたり、語尾が弱くなっていたり、音がこもっていたり――。本人は普通に話しているつもりでも、相手には「聞き取りにくい音」として届くことがあるのです。
しかし、この“聞きにくさ”は、本人ではほとんど気づけません。
自分の声は自分の耳に届きにくく、相手の反応がなければ判断できないためです。
気づかないまま会話を進めてしまうと、言葉の受け取りがズレてしまい、伝えたかった内容から離れてしまうことも。行き違いの原因となり、不安を抱えるきっかけにもなります。
聞き返してもらえる関係が支えになる
会話で最もつらいのは、「伝えたつもりだったのに伝わっていなかった」という瞬間。
この行き違いは、本人に大きな負担となり、コミュニケーションへの自信を奪うこともあります。
そこで力になるのが、相手がためらわずに聞き返してくれる姿勢です。
「今の部分、もう一度言ってもらえる?」
「少し聞き取りにくかったよ」
たったこれだけで、空気がやわらぎます。
聞き返してもらえると、相手が“理解する気がある”と分かるからです。
誤解が少なくなり、安心して話し進められる土台ができます。
聞き返しは“失礼”ではなく、むしろ“優しさ”として受け取られるもの。
会話のズレをその場で直せるため、コミュニケーションの質が大きく変わっていくのです。
聞き取りにくい部分を具体的に教えてもらうことの効果
もう一つ、大きな力になるのが“具体的なアドバイス”をもらえることです。
「早口になると聞き取りにくいけど、ゆっくり話せばほぼ分かるよ」
「語尾が少し弱くなるから、最後だけ意識してみて」
こんなふうに、はっきり言ってもらえると、自分の話し方のクセが見えてきます。
誰かの視点が入ることで、改善のヒントが手に入り、コミュニケーションがぐっと楽になります。
また「ゆっくり話せば伝わる」と言われるだけで、心の負担が軽くなる感覚も生まれます。
“自分のペースでも大丈夫なんだ”と気づけるからです。
この経験は、言語障害のある人にとって大きな支えとなり、
「話すのが怖い」という気持ちをやわらげ、安心して言葉を出せる環境づくりへつながっていきます。
私の体験|聞き取りにくいと言ってもらえた日、何が変わったか
言語障害があると、相手に“聞き取りづらさ”を感じてもらっても、本人には気づけないことがあります。気づけないまま話を進めてしまうと、伝えたかった内容が相手に届かず、モヤモヤした記憶だけが残ることも。そんな日常が、たった一言で変わった経験を振り返ってみます。
聞き返されずに会話がズレていった過去の苦しさ
昔の私は、「自分の声は普通に届いている」と信じていました。
だから、相手が聞き返してこない時は「理解してもらえた」と思い込み、そのまま会話を進めていたのです。
けれど、後になって“話がかみ合っていなかった”と気づく場面が何度もありました。
本当は聞き取れていなかったのに、相手が気をつかって流してしまう。
その結果、こちらは「伝わった」と思い込み、行き違いが生まれてしまう。
これが一番つらい時間でした。
届かない言葉。
伝えたかった思いが、どこかでねじれてしまう不安。
自分の声への自信が、少しずつ削れていく感覚。
言葉が“通らない”状況は、心にも重くのしかかる壁となり、会話そのものが怖くなる日もありました。
「聞き取りにくい」と正直に伝えてもらえた時の安心感
そんなある日、思い切って聞いてくれた相手がいました。
「ごめん、今の部分ちょっと聞き取りにくかったよ」
その一言に、肩がすっと軽くなったのを覚えています。
怒るどころか、相手はただ“理解したくて聞いただけ”。
拒絶ではなく、寄り添う姿勢でした。
その瞬間、私の中で大きな変化が起きました。
「聞き返されるのは、恥じゃない」
「相手が知ろうとしてくれている証拠なんだ」
そう気づくと、会話の不安が少しずつ溶けていきました。
相手の優しい一言が、ぎゅっと縮こまっていた心を広げてくれたのです。
それ以来、私自身も“聞き直されること”を怖がらずに話せるようになり、言葉を交わす時間に前よりも温度が生まれました。
話す速さを変えたことで見えた、コミュニケーションの変化
さらに、その相手は続けてこう言ってくれました。
「ゆっくり話してくれたら、すごく分かりやすいよ」
この言葉が、次のステップにつながりました。
私は、自分の話す速さを少しだけ意識し始めたのです。
最初はぎこちない歩み。
でも、ゆっくり話すことで音が聞こえやすくなると分かり、相手の表情から「伝わっている」という安心が返ってきました。
その経験は、会話への恐怖心をやさしく溶かしてくれる出来事となり、
「私は工夫すれば伝えられるんだ」と実感するきっかけへと変わりました。
話す速さを変えただけで、“関係”が変わる。
相手との距離が縮まり、コミュニケーションの質も深まる。
そんな手応えを、確かに感じられた瞬間でした。
聞き取りにくいと感じた時にできる優しいサポート
言語障害がある人が求めているのは、大きな特別支援ではありません。
会話の中で「この人なら安心して話せる」と感じられる、小さな思いやりの積み重ねです。ここでは、どんな関わりが心の支えになるのかを見ていきます。
「もう一度聞いていい?」が信頼を生む理由
言語障害がある人の多くは、「聞き返されたら迷惑かな」と不安を抱きがち。
そのため、相手が困っていても気づけなかったり、気づいても話し直す勇気を出せなかったりします。そんな時、「いまの部分、もう一度聞いてもいい?」という一言が、大きな安心につながります。
この言葉は、相手が“理解しようとしてくれている姿勢”そのもの。
拒絶ではなく、寄り添う態度の表れです。
もう一度言ってほしいと言われると、自分の言葉を受け止めようとしてくれる気持ちが伝わり、心がふっと軽くなる瞬間があります。
ただの確認ではなく、信頼の橋をかけてくれる行為。
言葉のキャッチボールを続けられる相手は、心の支えとなる相手。
聞き返しをタブーにせず、普通の会話の一部として扱ってくれる人ほど、安心して話せる存在になります。
話すペースを合わせるだけで会話が楽になる
言語障害があると、話す速さや間の取り方が苦手な場合があります。
相手がスピードを合わせてくれるだけで、会話の負担はぐっと軽くなるもの。
「ゆっくりで大丈夫だよ」と言ってくれる人の存在は、何より心強い安心材料です。
話す側のペースに寄り添ってくれると、言葉を選ぶ時間が生まれ、伝えたいことを落ち着いて整理できるようになります。急かされない空気があるだけで、声が出しやすくなる安心感。
そしてもう一つ大切なのが、相手の表情。
相手が焦らず、ゆったりと待ってくれる姿勢は、何よりの励ましとなり、伝えたい気持ちを後押ししてくれます。
言葉がすぐに出てこなくても、待ってくれる存在がいる。
その事実が、コミュニケーションを楽にし、人とのつながりを深めてくれる大きな力となります。
筆談・文字・アプリなど、言葉以外で支える方法
言葉で伝えることがむずかしい場面では、別の手段を取り入れるだけで会話のハードルはぐっと下がります。
筆談アプリ、スマホのメモ、ジェスチャー、チャットツールなど、方法はたくさん。テクノロジーは心強い味方です。
たとえば、「急ぎの場面ではメモ」「落ち着いた場所なら音声」「長い説明は文字で補助」など、状況に合わせて使い分けるだけでやり取りがスムーズになります。
一つの方法にこだわらず、複数の手段を混ぜてやり取りできることが、会話の自由度を広げる鍵。
相手が文字やツールを抵抗なく受け入れてくれるだけで、伝える負担が大きく減り、会話の成功体験も増えていきます。
言葉以外のサポートは、ただの補助ではなく、“理解したい”というメッセージそのもの。
こうした柔軟な工夫が積み重なることで、コミュニケーションはもっと楽に、もっとあたたかくなっていきます。
聞き取りにくい人を支える環境づくり
言葉が聞き取りにくい場面では、周囲の環境や配慮の有無がコミュニケーションのしやすさを大きく左右します。
ここでは、学校や職場といった日常の場面から、公的な場での支援まで、実際に役立つ関わり方を紹介します。
学校・職場でできるツール活用と配慮
声が出しにくい場面では、タブレットの音声変換アプリ、スマホのメモ、コミュニケーションボード、文字盤など、補助技術が大きな力を発揮します。学校なら黒板アプリやタブレットメモ、職場ならチャットやオンライン会議の字幕機能など、状況に応じた選択肢を使い分けられるのも強みです。
重要なのは、周囲の人がこれらのツールを“特別なものとして扱わず、自然な方法のひとつ”と受け止める姿勢。使う側の緊張が減り、コミュニケーションの幅が広がりやすくなります。
身近な人ができる寄り添い方
家族や友人、学校の先生、職場の仲間といった身近な存在ができるサポートの中心にあるのは「向き合い方」。相手のペースを尊重し、言葉を探す時間を急かさないこと。
表情や動作から困っている気配を読み取り、必要に応じて「どこまで話したかった?」「どう感じた?」といったオープンな質問を投げかけること。
100%理解できなくても、理解しようと寄り添う姿勢そのものが安心につながり、本人の「話してみよう」という意欲を支えます。
公的な場で広げたい“ゆっくり話せる空気”
行政・学校・医療機関・職場など、パブリックな場でも同じく環境づくりが重要です。補助技術を前提にした説明の工夫、ゆっくり話す人に合わせた時間の確保、文字での情報提示などがあるだけで、コミュニケーションの壁は大きく下がります。
また「ゆっくりで大丈夫ですよ」「聞き返しても構いませんよ」という一言が本人の不安を解きほぐすこともしばしば。自分のペースを相手に伝え、聞こえ方や話し方を整理していく過程で、対話のしやすさが高まり、より自由な意思の表現が可能になります。
身近な人の寄り添いと公共のサポート、この両方が揃うことで、日常のコミュニケーションは格段にスムーズになります。
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